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なるべく考えないようにしていた事に遠慮なく触れてくる、そんな郁人君に苛立ちを感じる。これは私と匡介さんの問題で、時間をかけて理解し出来ればと思っていたのに……
それでも少しでも考えていた一番嫌な可能性を指摘され、ズキンと胸が痛かったのも事実だった。
「ほら、ちょっと疑ってしまうでしょ? きっとあの男はあの日のことについて、君に何も話さなかったはずだからね」
「……郁人君は、あの日の夜に匡介さんがどこにいたのか知っているの?」
郁人君の言い方が何か引っかかる、きっと彼はあの夜の匡介さんについて何かを知っているはずだ。
思った通り、私の問いかけに郁人君はニコリと微笑んで私へと近づいてくる。
「知って傷付くのは杏凛ちゃんの方じゃないのかな? あの夜、鏡谷 匡介はある女性と一緒だった。僕はその時に……」
「嘘よ」
口から出た言葉は私が思っていた事とは違う、郁人君の言葉を信じたくない気持ちで出た一言だった。
「杏凛ちゃん? どうしてそう言い切れるの」
「嘘よ、そんなの。理由なんて無くても、私は匡介さんの口からその事を聞くまで信じないわ」
本当は心の中は揺れていた。だけどここで郁人君の言葉を信じれば、匡介さんの事を信じていないように思えたから。
私がこれから先向き合うべきなのは、郁人君ではなく匡介さんのはずだもの。
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