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それを伝えたいのに、郁人君の腕が咽喉にあたって上手く声が出せない。
匡介さんにならば私の心全てを許しても構わない、それが出来ないでいるのは私が弱くて怖がりだから。契約という形でしか妻になれない自分が本気になっても、いつか来る終わりに怯えなければいけないから。
もちろん、そんな事を匡介さんに話したことなんてなかったけれど。
「ああ、分かってるさ。それでもお前に杏凛を渡すわけにはいかない、たとえ俺では彼女を幸せに出来なくとも」
真っ直ぐな眼差しを向ける匡介さんの言葉を、私は信じられない気持ちで聞いていた。私を幸せに出来なくても? その言い方ではまるで匡介さんは本心では私を幸せにしたいと言っているように聞こえてしまう。三年という契約期間を設けたのは彼なのに、どうして……?
「自信の無い奴は引っ込んでいたらどうかな? 俺ならば杏凛ちゃんを幸せに出来る、杏凛ちゃんもそう思うだろ?」
そう言ってニタリと笑う郁人君はもう私の知っている彼ではなかった、身体中がビリビリと郁人君に強い拒否反応を起こしているみたいに痛い。
私には郁人君と幸せな未来なんかこれっぽっちも見えてこない。私が一緒に幸せを感じたいのは……
声を出せない代わりに必死で首を振る。郁人君が今なら考え直してくれるかもしれない、そんな小さな期待を持って。だけど……
「ふうん? 杏凛ちゃん、俺より鏡谷 匡介の方がいいんだ?」
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