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強い怒りを感じさせる声音でそう囁かれ、掴まったままの身体がビクリと震える。当然だと言いたいのに、何をされるか分からない恐怖で言葉が出てこなかった。
私が郁人君の手に持っているナイフばかりに気を取られていると、いつの間にか大きな窓と彼の間に挟まれるような体勢になっていた。
ガラス越しとはいえ、すぐそこに見える外の景色に喉の奥がヒュッとなる。ボロボロのコンクリートだけが広がる地面に頭がくらくらする、ここから落ちたらきっと助からない……
「橋茂 郁人! お前、まさか……っ!」
私を人質に取られ動けない状態の匡介さんが大きな声を出す。もしかしたらと思っている事が現実になってしまう、そんな気がした。
「……郁人君、どうして?」
震える声でそう問いかける。
彼がナイフと一緒に持っていた小さなリモコン、そこにあるボタンはたった一つだけ。そのボタンを指の腹で撫でるように触れる郁人君は吹っ切れた表情をしていた。
「だってこうでもしなきゃ、俺が杏凛ちゃんと一緒になれる日なんか来ないから。ねえ、そうでしょ?」
そう言って郁人君はリモコンのボタンを匡介さんに見せつけるように押した。ゆっくりと大きな窓が左右へと開いていく。
「いいだろう? 今日、この時のために特別に作り変えてもらったんだ。鏡谷 匡介、誰より憎いお前の前で杏凛ちゃんと永遠になるために……」
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