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「……っ、あ、あ……」
声が上手く出せなかった。少しで動けば私はここから落ちてしまうかもしれない、そんな恐怖で頭がいっぱいになる。
まさか郁人君が私に対して、ここまでしているなんて思ってもみなかった。
「もうよせ、そんな事をして何になる⁉ そうすることで杏凛がお前のものになるとでも?」
「動くなよ、お前が動くなら先に彼女に落ちてもらう。それが嫌なら……大人しく俺たちが一つになるのをそこで見ていればいい」
グッと唸りながらも、匡介さんはその場から動けない。私が自分で郁人君の腕を振り払えればいいのに、恐怖から身体がガタガタと震えるだけ。
このままでは何もかも郁人君の思い通りになっていく、終わってしまう……私と匡介さんの関係も。そんなのは、嫌‼
「助けて、匡介さん!」
必死で出せた言葉はそれだけだった。本当は私に構わずにとでも言えれば良かったのかもしれないけれど、今の私はどうしても匡介さんの元へ戻りたかった。
私の言葉に匡介さんが顔を上げこちらに走り出した、その瞬間——
「無事か、二人とも!」
さっき匡介さんが蹴り開けた扉から男性が二人、勢いよく中へと飛び込んできた。その二人は私も見覚えのある人たちで……
「な、なんだお前たちは! ……ぐっ!」
驚いて怯んだ郁人君の腕を噛みついて、私は急いで前の床へと倒れ込んだ。そうしなければきっと彼らの迷惑になる、そう思ったから。
「今です匡介、早く杏凛さんを……!」
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