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「あのさ……気持ちは分からないでもないが、そろそろこっちの方もどうするか決めて欲しいんだがな」
コホンと言う咳払いと共に聞こえてきた少し冷やかしたようなセリフ。慌てて匡介さんの胸から頭を上げ、声の主を見ると……
「狭山さん、二階堂さん……!」
先ほど飛び込んできたのは、香津美さんと月菜さんの夫であるこの二人。先ほど蹴られた郁人君を、いつの間にか紐で縛り上げ床に転がしてしまっていた。
狭山さんは珍しい物を見るような目で私達を見ているし、二階堂さんは困ったように視線を逸らして咳払いをしてる。一気に恥ずかしくなって匡介さんから離れようとすると、その身体をそのまま抱き上げられてしまって……
「き、匡介さん!?」
「杏凛はさっきのショックで腰を抜かしている、変に揶揄って妻を困らせないでくれ」
腰なんて……そう思ったが、今は震えていてとても立って歩けそうもない。匡介さんの言う通りにするべきだと大人しく彼の腕の中にいた。
狭山さんも二階堂さんもそれ以上冷やかすようなことはせず、スマホを操作しているようだった。
「警察はすぐにくるだろう、事情を聞かれるだろうが杏凛さんは大丈夫か?」
狭山さんの言葉に私は少し迷ったが、小さく頷いて見せる。他にも気になる事はあるけれど、これは私の問題だからしっかりしなくては。
心配そうに私を見る匡介さんにも「大丈夫だ」と言うようにその瞳を見つめ返した。
……結局この日帰れたのは、深夜に近い時間になってからだった。
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