契約結婚とあの日の事実は

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「前の時に助けてくれたのは匡介(きょうすけ)さんだって郁人(いくと)君は言ってた。私は何も覚えていないのに……」  そう、記憶は戻ったけれど私が匡介さんに助けてもらったことに関してはまだよく思い出せてない。というよりも以前、郁人君に誘拐された途中から何が起こったのか全然分からないままだった。  それでも先に記憶が戻ったことを伝えたのは、少しでも彼の心を揺さぶりたかったからかもしれない。 「そうだな、俺が助けに行った時には君はすでに気を失っていたから」  知らなくて当たり前、それを当然のように話す匡介さんに少しだけ苛立ちを感じる。 「どうして教えてくれなかったの? 私は助けられたのに今まで何も知らないまま貴方の傍にいたのよ?」 「橋茂(はししげ) 郁人の事を話せば、記憶を無くしている杏凛(あんり)に余計な不安を与えるだけになる。君の両親とも話し合って出した結論だった」  頭では理解出来る、なのにまだ心が付いてこない。すべて私の事を心配してくれての事なのに、今まで何も知らず守られていただけなのだと知ってどうしようもない気持ちになる。 「ちゃんと話してもらっていれば、今回の郁人君の事はもっと気を付けることが出来たかもしれないじゃない!」  完全な八つ当たり、攫われたのは私の注意不足なのに匡介さんを責めてしまう自分を止められない。どんどん感情的になっていく私を冷静なまま見ている匡介さんにも腹が立っていた。  ……どうして、どうして私だけがこんなにっ!
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