契約結婚とあの日の事実は

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「……すまない」  だから、なんでそうなるの? 悪いのはどう考えても私の方、ただの八つ当たりに匡介(きょうすけ)さんが謝る必要なんて少しも無いのに。  不愛想なのに優しすぎる彼は、自分を責めて私が悪いなんて一言だって言わないの。そんなの私は望んでなんかいないのに、その思いは欠片も伝わらない。それがとても悔しくて…… 「結婚しても話してくれなかったのは、私が契約妻に過ぎないから? それとも事件に巻き込まれた私を一度助けて放っておけなかった? それってただの同情よね」  思ってもいない言葉が口から次々に零れていく、感情的になっちゃダメだって分かってるのに自分を抑えられなくなっていた。私が欲しかったのは匡介さんの同情なんかじゃない、ただ何も言わず守ってくれる夫でもない。  ……でもきっとそれは永遠に手に入らないと、どこかで分かっているから。 「杏凛(あんり)、いい加減にするんだ! 俺は別に同情なんかで君の傍に居たわけじゃない。ただ、嫌われている俺にはそうする事しか出来ないから……」  嫌っている、私が匡介さんの事を? そんなことあるわけが……そう考えて、今までの自分が匡介さんに対してどういう態度をとってきたかを思い出す。  ずっと彼から視線を感じて、居心地が悪いと思い匡介さんを避けてきた。それも随分前から。でもそれは私が匡介さんと結婚する前までの話で、今はそんなこと……! 「だがそれも仕方ない事だと分かってる。俺はこの通り強面で不愛想だし、君に気の利いた事の一つも言えないままだ。そんな俺が杏凛を守るにはこうするしか方法が思いつかなかった」  ……つまり、この契約結婚そのものが私を郁人君から守るための手段だったという事?
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