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「でも、私は……」
匡介さんと暮らす家にいたい、そう言いかけて止めた。
毎晩毎晩魘されるたびに匡介さんは私の傍にいてくれた、きっと彼はその間まともに寝れてもいなかったでしょう。仕事で忙しいと夜遅く帰っても、水の入ったグラスとタオルを持って私の様子を見てた。
もし私が月菜さんの所にいれば匡介さんの負担は減るかもしれない、彼は自由になれるかもしれない。私さえ、匡介さんの傍にいなければ……
「聞いてくれ杏凛、俺達は君の事を思って……」
「分かりました。私はしばらくの間、月菜さん達のお世話になる事にします。ごめんなさい、柚瑠木さんと月菜さんには迷惑をかけてしまうけれど」
二人に対して申し訳ない気持ちはあった、それでも私は少しでも匡介さんを自分から解放するべきだと思ったの。だって私は匡介さんの何の役にも立てず、重荷にしかなっていない。
だから……
「でも、匡介さんに一つだけお願いがあるんです」
最後になるかもしれない、我儘を言わせてもらって良いですか? 本心じゃない、でも私に出来る事ってこれくらいしかありませんから。
「なんだ?」
「この家にお世話になるのは二週間まで、それまでに私の状態が改善されなければ……私を実家に帰してください。私達を結ぶこの契約を終わりにして……」
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