4794人が本棚に入れています
本棚に追加
私の今の状態がいつ治るかなんて分からない。匡介さんやあの家から離れて月菜さんの所にお世話になっても、この症状が治まってくれるという保証もない。
いつまでも匡介さんや月菜さん達に迷惑をかけるくらいなら……そう覚悟を決めた。今の私に出来る事はそれしかなかったの。
「杏凛、何故そんな事を……?」
「私と匡介さんの契約結婚は郁人君のから私を守るためのものだったんですよね? 郁人君はもう逮捕されましたし、私の記憶は戻りました。もう、この結婚を続ける意味はないのでは?」
なるべく落ち着いた声でそう答えて見せる。胸の奥がギリギリと今まで以上に痛むけれど、それも必死で耐えるしかなかった。
私が本当は匡介さんの傍にいたいと言えば、彼はきっと自分を犠牲にして傍にいてくれるはず。でもそんなのはもう嫌だった。
「杏凛さん! 匡介さんはそういう意味でここに杏凛さんを連れてきたわけでは……!」
私たちの会話を黙って聞いていた月菜さんが我慢できないという表情で私たちの間に入る。もちろん月菜さんの言いたいことも分からないわけじゃない。でも私は……
「それが本当に杏凛の望む事なのか?」
「……はい、そうです」
音を立てないようにつばを飲み込んで、後は黙って匡介さんを真っ直ぐに見つめていた。目を逸らしてはいけない、今だけは。
「分かった、それが杏凛の希望ならそうしよう」
最初のコメントを投稿しよう!