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私の予想よりも匡介さんはあっさりとこちらの願いを受け入れてくれた。やっぱり彼も私との生活に限界を感じていたのかもしれない。
そう考えると寂しさも悲しさも何も言葉にしなくて正解だったと思った。
「杏凛。君を守るためとはいえ、無理な結婚生活を強いてすまなかった」
「……いえ、私こそ何も知らないまま匡介さんに守ってもらってばかりですみませんでした」
出来る事ならここから一からやり直したかった、でも私が毎晩魘されている以上は匡介さんの負担にしかならない。それはもう耐えられそうになかったから。
「匡介さん、杏凛さん……少し落ち着いて考えてください。急いで答えを出そうとすればきっと後悔します、だから……」
「月菜さん、すまない。杏凛の事を頼みます」
私たちの間で必死に止めようとする月菜さんに、匡介さんは頭を下げてそのまま玄関から出て行ってしまった。そんな私たちの様子を黙って見ていた柚瑠木さんが立ち上がり……
「匡介の事は僕に任せてください。彼だって本心では違うことを望んでる、だから杏凛さんはもっと素直になっていいと思いますよ?」
それだけ言うと柚瑠木さんは匡介さんを追って玄関へと向かう。扉の閉まる音がしたと同時に目の奥がジンと痛くなって、堪えていたはずの涙が一粒零れ落ちた。
「……我慢しないで泣いてください、杏凛さん」
優しい月菜さんの言葉。彼女の腕の中で思い切り泣かせてもらいながら、私達はその夜を過ごしたのだった。
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