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「事件の事は旦那さん……匡介君から聞いてるよ、記憶が戻ったそうだね?」
「はい……」
匡介さんが鵜方先生に大まかな事は話をしていたらしく、私は診察室に入るなり彼に真剣な表情でそう聞かれた。それでも戻った記憶は途切れ途切れで、どこか他人事のように感じている部分もあった。
過去の事件では途中で気を失ってしまった私、今も雷や酷い雨に対しての恐怖が残っているくらいで……どちらかと言えば今回の事件に対してのショックの方が大きかった。
「毎晩魘されている、とも聞いているけれど」
カルテに目を通しながら鵜方先生はチラリとこちらに視線を移す。嘘なんてついたって長い付き合いだからすぐにバレる、そう思ってきちんと話す事にした。
「はい、事件の日から毎晩……加害者の男性が夢に出てきます」
「どんな風に?」
真剣な表情の鵜方先生、いつもは軽口なのに今日はそんな様子は全く見せない。それほどまでに大事な話をしているんだって分かってるけれど苦しくて。
「自分なら私を幸せに出来る、そう言って手を伸ばして。私はいつもその手を払って、でも……」
息が上手く出来なくなる気がする、思い出せばすぐ傍に郁人君が来てしまうような気がして。ここに匡介さんがいないことが物凄く不安だった。
「杏凛、落ち着いてゆっくり呼吸しなさい。その男はもう君に近づくことはない、そうだろう?」
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