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「匡介さんならば付き合いも長いから、私達も安心なの。杏凛の病気の事も彼ならば――――」
「ええ、そうね……そうだと、いいのだけれど」
……分かってる。私の持つ病気の所為で両親に心配をかけている事も、その所為でいつまでも結婚相手が決まらないままなのも。それなりに大きな家の娘として育てられたにもかかわらず、この年まで見合い話が上手くいったことは無かった。
「子供を産める保証はありません」
私が必ず見合い相手に最初に言わなければいけない言葉、それを聞いて怒り出す人だって過去にはいた。だけど、嘘をついてもすぐにバレる事だから。
子を産める可能性が無いわけじゃない、だけど実際はその逆の可能性の方が高い。
机の引き出しを開けて、そこに綺麗に並べられた薬を見つめる。今の私に必要な薬、これを服用している間は子供を望むことは出来ない……
だけど、匡介さんの提案した通りの結婚ならば問題ない。
「三年の契約結婚ならば、子作りをする必要なんてないものね」
彼の渡してくれた契約書の中に、きちんと書かれていた。夫婦生活は不要、だと。
「杏凛、匡介さんはそういうつもりじゃ……」
両親はそう言ってくれたが、私はそれでもいいと思った。その程度の存在、形だけ望まれた妻なのだとはっきりしていて良いではないか。
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