1『創立五十周年記念式典』

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1『創立五十周年記念式典』

シャボン玉創立記念日・1『創立五十周年記念式典』     大橋むつお 時 ・ 現代ある年の秋 所 ・ 町野中学校 人物・ 岸本夏子   中三 水本あき   中三 池島令    町野中の卒業生歌手 池島泉    令の娘、十七、八歳  満場の拍手の中、下手司会者席の夏子にライトがあたる。今、挨拶が終わって退場しつつある(という設定)校長を、客席の人々といっしょに拍手で送り返している。町野中学校創立五十周年記念式典のクライマックスが迫っている。 夏子: 校長先生の、おまとめのお言葉でした。ありがとうございました林信彦校長先生。それではみなさん、お待たせいたしました、式典のおひらき、フィナーレを飾っていただくため、スペシャルゲストをお招きいたしております。本校をン十年前に御卒業になり、現在、テレビ、ラジオ、そしてライブでご活躍中の、我町野中学の大先輩、シンガーソングライターの池島令さんにご登場願います。  校長の時以上の拍手で、中央又は上手から令があらわれる、式典らしく、長目のロングドレス。 令: みなさん、今日は、池島令です。知らない人も多いかも(拍手)ありがとう、普段大人相手の歌ばかり歌ってるから、どうかなと思ったんですけど、知ってくれていてありがとう……あたし、本名は池島令子っていいます。子があるかないかだけなんだけど、歌手デビューする時に、「もう子供じゃないんだ!」そんな思いで「子」の字をとりました……それと「令」という呼ばれ方には中学時代の思い出が……今日は式典なんでこんな似あわないドレス着てるけど普段はパンツルック。中学生の時も、学校以外でスカートなんて穿いたことなかったの。悪いことばっかしてて……たとえばこの講堂の上、あがれるんだよ、そこでタバコ吸ったり、下級生いじめてる男子にケリ入れて、いきおいあまって玄関の大きなガラス割ったり、そんなあたしを、先生方も友だちも令子とは呼んでくれない「コラ、令!」「しばき倒すぞ令!」……「令子」って呼んでもらったのは卒業証書をもらう時だけ……そんなあたし、池島令がみなさんに送る歌、さぞや、ジャズやソウルとかレゲーとか、知ってる?ドガチャカにぎやかなやつ……違うんだぞー。実は、池島令にまだ「子」がついていたころ一番好きだった歌……笑っちゃやだよ。アハハハ……って自分で笑ってどーすんのっつうの、ね。その大好きな歌唄わせてもらいます。野口雨情作詞、中山晋平作曲「シャボン玉」……  令は「シャボン玉」を、叙情的に、しかし明るく歌いきる。技術的には、CDの歌にあわせた口パクか、音楽の先生とか、コーラス部あたりの上手な人の声をとって口パク。自分で歌っても良いが、ここ、相当上手にやらないと、芝居をこわしてしまうので注意。 令: どうだった? 意外に素直、でしょ。知ってたこの歌? この歌はシャボン玉を赤ちゃんや子供の命にたとえてあるんだって。昔は、生まれて一才までに死んじゃう子が多いから、その命の儚さとか悲しさを、そうは感じさせないように明るく歌った……というのは大人になってから知ったことで。君らぐらいの時は、あたし、このシャボン玉って、少年時代の夢とか、あこがれのことかと思ってた。毎日いろんな新しいことに気をとられたり興味を持ったりして、なかなか自分に、本当に自分にあった夢やしたいことが見つからない、あれおもしろい! と思ったら次の日にはそれがおもしろくなって、そしてまた別のおもしろいことが見つかって、シャボン玉のように消えていく楽しい歌だと思った。だからあたしは、そういうふうに歌ってます。でもシャボン玉ってすぐ消えちゃうから、これだって思ったら、両手でパチンとつかまえて、自分の体や頭にしみこませるの、シャボン玉を体に憶えさせるの。そうすると、いつか自分自身がけして割れないシャボン玉になれる。いい、余計なことを考えちゃダメなんだ。楽できそう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ! 直感で、これだって思えるシャボン玉、どうぞ、君たちも見つけてください、ヘヘ、ちょっと長い令のお話はこれでおしまい。それじゃ、五十周年おめでとう! 六十年七十年、いや百年めざしてがんばってくださーい!
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