世間知らずの魔術使い そんな彼のよくある物語 ～王都学園編～

1話 よくある 物語の始まり

　村の片隅にある草原でバスタードソードの剣先を見つめて息を飲む。対峙している相手は老人だけど、ごつごつとした体格は筋骨隆々と老いを感じない。それどころか放たれる覇気は時間が経つたびにひしひしと増すばかりだ。こっちは息が乱れ、焦りを感じているというのに。さっきから何度も打ち込んでいるけれど、容易くあしらわれ、相手には隙が無いのだから。
　大きく息を吸い込み、両手で握る剣に力を込める。すると老人が剣を振り上げて踏み込んできた。目の前でバスタードソードが振り下ろされ、剣先が弧を描き襲ってくる。
　くっ！　と歯を食いばり、剣でなんとか受け止めることができたけれど、それは十歳の僕には重すぎる。全身に伝わる衝撃に思わず顔が歪んだ。
「ほらほら、どうした」
　余裕たっぷりに白い髭を蓄えた老人がそう嘲笑う。防ぐことで精一杯だ。捌き切れない。
　くそう！　負けて堪(たま)るものか！　そう怒り任せにありったけの力で剣を弾き飛ばし、地を蹴って一度背後へと飛ぶと、すぐさま反撃に備えて身構えた。
　相手は布の服に胸当てという軽装備。子ども相手だから余裕なのか、深追いせずにバスタードソードを構え直すと、フン！　と腕の筋肉を膨らませた。
「まだまだじゃのう」
　その台詞と同時だった。老人とは思えない素早い動きで再び踏み込み、襲いかかってきたのだ。一気に間合いを詰められ、焦りを隠せない。
　目の前で弧を描き振り下ろされる剣。
　振り払おうと半歩踏み込んで剣を振り上げたけれど、出遅れてしまった。
　弾ける音と共に手元から剣が弾き落される。と同時に手が痺れた。
「今回もワシの勝ちじゃな、ギル」
　ニヤリと自慢の筋肉を見せつけ、勝利のポーズをとる老人に思いっきり地団駄を踏んだ。