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66話 よくある 物語の始まり
夏の季節が姿を見せ始めている。去年までは、この時期になるとかなり汗ばむのだけれど、王都はウィードルドと違いかなり涼しく過ごしやすい。リリーの話によると冬は雪が積もるらしい。滅多に雪が降らないウィードルドでは想像が出来ないことで驚いてしまった。
教室では魔力測定が終わり気が緩んでいるのか、あと十日に控えた長期休暇について話が盛り上がっていた。
特にヴァーリアルで開催される祭りごと――剣舞会だ。
各領地の剣士代表者が出場をして行われる。選ばれ方は領地によってそれぞれ違うみたいだ。
腕に覚えのある者が戦い抜き選ばれる領地があれば、領主が指名するところもあるらしい。ガーネシリア領ではもちろん前者だ。最近朝のトレーニングに気合が入っているリリーが楽しそうに話していた――血が騒ぐと。
前期も終わりか。ふと教室を見渡す。
いろいろと大変なことが起こったな、そうしみじみに思い返す――と、ふと青い瞳のユーディー様と目が合った。
にっこりと挨拶してくる淡い緑の髪の彼女に、同じく笑みで返す。
「ギル様は長期休暇の予定はどうなさるのですか?」
クセっ気のある水色の髪のマルセーヌ様が、金色の瞳を細めて訊ねてくる。
「特になにも考えていません」
「田舎には帰らないの? ギル」
はにかんでいると、珍しい黒髪のユウキ様が話に入ってきた。
「往復二十日もかかるし、お金もかかるので」
帰省にかかる旅費を考えると、今あるお金を使うとなれば、これからの生活がだいぶん苦しくなる。ダフィー商会が学園での必要なお金は面倒をみてくれるけれど、さすがに旅費までは頼めない。
「じゃ寮に残るの?」
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