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「ほかにも、槍で大木を貫く騎士や斧で岩を砕く騎士がいるとも書いてあったが」
過去にはすごい騎士がいっぱいいたんだ。お姉様の話に僕も側仕えたちも感嘆の声を上げる。
「平和になった今では、そこまで極める騎士がいなくなってしまったらしいが。領地最強と言われているルシード王ですら、そこまで極められていないようだしな」
リリーのお父さんでも――剣舞会の時に感じたあのすごい覇気の持ち主ですら技を極めていないなんて。僕には技を極めることが出来るのだろうか? 心配になってきた。
「もう一度、じいちゃんの技を見ることが出来ればな」
憧憬の眼差しでしか見ていなかった昔の自分が歯痒い。もっといろいろな角度から見ていれば、と悔やまれる。
「風で斬る、というわけではないが、岩を砕く騎士なら知っているぞ」
「え!」
お姉様の呟きに思わず驚きの声を上げた。
「今は騎士を辞めているが、ワタシが小さい頃は『剛腕の騎士』と呼ばれていたな」
なんて強そうな二つ名だろう。
「確かナンデイーブ領――」
ナンデイーブ領と聞き、ふとユーディー様の顔が浮かぶ。
「そう。名をアルギニオと言っていたな」
その名に驚き、ふと前に、彼が『極意』の技を僕の話しから一発で扱った時のことを思い出したのだった。
「一体どうしたのですか?」
食堂で、朝の稽古に出ていなかった聖女様とグレーの髪の側仕えがそう怪訝な顔を見せる。
お姉様の言葉にずっと上の空だった僕とほかの側仕えは、同じことを考えていたのだ。
それは――
お姉様が僕の顔の前で手刀の素振りをしたことから始まった。
「どうだ? 風を感じたか?」
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