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見送ってくれる聖女様に僕が頷くと、側仕えたちも絶対にですよと念を押してきた。
おそらく聖女様は『風』のことだけではなく、『風景画』のこと、『勇者ユウキ様の動向』のことを言っているのだろう。
聖女様の真剣な瞳からそう受け止め、もう一度頷いて見せた。
「それではまた」
お互いに挨拶を交わし、僕は屋敷をあとにし、インゼさんと合流したのだった。
「帰省する日にちをわざわざ変更して頂き、申し訳ございません」
「リリー姫様の大切な友のことですので、お気遣いなく」
黄緑色の瞳を細めたインゼさんがそう微笑みを見せてくれる。
馬車に乗り込み向き合って腰を下ろすと、ふと彼女の足元にある荷物に目がいってしまった。
「インゼさん。それはもしかして剣ですか?」
布袋に入っている細長いものを指し訊ねてみる。すると、肩口にかかっている茶髪を揺らし荷物を見た彼女が頷いた。
「ええ。昔、騎士を目指していまして。そのときの癖で、未だに素振りなど鍛錬のようなことを少々」
インゼさんの細身の身体からは、騎士を目指していたなんて想像もしていなかった。そんな驚いた僕を見てインゼさんが嘲笑う。
「こう見えても騎士学園を卒業しているのですよ」
「そうだったんですか? でも、どうして騎士ではなく、リリーの使用人なんかに」
「いろいろとありまして」
そう誤魔化すように言うと窓の外に視線を向け、黙り込んでしまった彼女にはそれ以上話しかけられなかった。
遠目に王都の防護壁が見える。
数日後、後期が始まる。たぶん、前期以上に授業が大変になるのだろう。魔術陣や猛獣討伐など、いろいろと頭に浮かぶ。
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