66話 よくある 物語の始まり

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「最終試験前に種を食べて、魔力の硬度を上げられると思ったのになぁ」  そう言うユウキ様の呟きに笑いが広がり、みんなが和み始めてしまったのだった。  僕は言葉を飲み込む。今、言える雰囲気ではない。あとでエルゼ女史に訊ねてみよう。そう静かに鳴りを潜めることにした。  するとドアがノックされ、ネイラック講師が顔を見せた。  エルゼ女史とドアの前でなにやら話し合いが始まった。この場面は二度目だ。  前回はマックドルガ神官長が来られた時だ。  エルゼ女史が静まり返った教室を振り返ると、 「午前の授業はここまでとする。午後は昼の鐘一の刻からだ」  と指示を出し、 「ギル君はワタシと来い」  と、こうなるのではと予測は出来ていた。さらに貴族様たちの視線が集まることも。  帰り支度が済んだ僕はエルゼ女史と共に会議室へ向かう。今回もマックドルガ神官長が直々に学園へ来てくれているらしい。  ドアを開けて入ると白髪頭の彼が立ち上がり、エルゼ女史と挨拶を交わす。  僕たちが椅子に腰かけると、机には白い布に覆われている四角いものがあった。  神官長がそれを僕の前へ差し出してくる。 「こちらは聖女様から届いたものです。あなた宛てです」  僕にですか? なんだろう、と首を傾げていると、 「聖女様から直々にですか!」  エルゼ女史が声を裏返らせ驚愕する。 「ギル。待て!」  彼女が白い布を解こうとする僕を慌てて遮る。そして神官長と顔を見合わせ「ワタシたちは一旦退席する」と言って、二人は立ち上がったのだった。  聖女様とは限りある人としか面識がなく、直々にものが贈られてくるということは、まずないらしい。
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