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67話 よくある 光景と聖女様の情報
「せいじょ……」
前もって驚かないように言っておいたのに、叫ぼうとしたリリーの口を慌てて押えた。
振り返り食堂の厨房へ目を向けてみる。誰も気づいていないようでホッと安堵し、リリーへ向き直すと小さく頷きを見せたので口を塞いでいた手を離した。
「どういうことなの?」
ひそひそと小声で話しかけてくる。話すより見てもらった方が早い。懐から持ってきた手紙を取り出すと、あわあわと手を振り回し、
「ちょっとバカ。こんなところで出さないで」
そう慌てふためく彼女に仕舞うように促され、書かれていた内容を話した。
「つまり魔術を見たいから会いたいと」
「うん。でも『近々』と書いてあったのに、エルゼ女史がすぐに発てと言うんだ」
「当り前でしょう。相手は国王と対等と言われる人なのよ。そもそも、『すぐ』にでもなくていいなら、十日もすれば夏休みなのだからそう指示を書くでしょう。学園に文書を送ってきているのだから」
聖女様でも学園の行事は知っているはずだとリリーが言う。
なるほど、と頷けるけれど、どうして素直に『すぐに』と書かないのだろう? と頭を捻った。
「それでいつ発つの?」
「明後日の昼前に」
そう告げ、不安で息をこぼした。
ただでさえ貴族様との付き合い方を知らない僕だ。聖女様とどう接すればいいのかわからない。粗相を起こし、咎められないだろうか。そう心配である。
リリーは、確かに、と呟くと顎に手を添えた。
「でも、聖女様に会った人なんて心当たりがないわ」
「エザベルさんはなにか知らないかな」
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