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「さすがに彼女もわからないと思うわ。領主のお父様ですら会ったことがないのよ。一側仕えがわかるはずがないわ。情報にしたって」
絶望的な言葉に、僕は項垂れた。
「大聖堂はヴァーリアル領にあるからマルセーヌ様ならなにか知っているかもしれないわね」
「いつか事は知れ渡ることだけど、なるべく穏便にするように言われているんだ」
「マルセーヌ様なら口は堅いと思うのだけれど……ちょっと二階へ行ってくるわ。明日の朝また話しましょう」
そう立ち上がってリリーは食堂を出て行く。
エルゼ女史は明日中に荷造りをしておくようにと言っていたが、なにを用意すればいいのだろう。僕は別の悩みにため息をついた。
翌早朝。トレーニングに現れたリリーは、情報はなにも得られなかったと首を振る。
やはりマルセーヌ様も聖女様を見かけたことがないらしい。知っているのは大聖堂のことだけだと言う。
大聖堂は聖女様がいるため、入り口は王城の方角を向いていて対等を意味しているらしい。王都と違い神殿はなく、大聖堂の隣には教会があり、孤児たちが預けられ、彼らはそこで施しを受け、奉仕をしているようだ。そして、孤児たちは大きくなると大聖堂へ移り、神官として働くらしい。
「それってずっと聖女様のもとで働くってこと?」
「そうね。その代りに衣食住は与えられるのだもの。それに教会へ入ると領民権を失くすわ。でなければ、みんな子供を教会に預けてしまうからね」
「それじゃ領民権を買えば普通の暮らしができるってこと?」
「あのね。教会で住み込みで働くのよ。お金を稼ぐことができないわ。どうやって小金貨一枚のお金を用意できると思うの?」
「金貨!」
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