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 今年の6月は珍しく雨が少ない。  ダムが渇水のニュースを報じている。  人間は雨が降りすぎても困るし、降らなくても困る。  ずーっと困っている。  そんな中、空に灰色の雲はやはり姿を現した。  そのふわふわした外側からは見えにくい、激しい稲妻を内包した内側で、ぼくは生まれた。 ぼくは雨。雨のひと粒。  雲の中は優しい冷気に満ちていて、ふわふわと柔らかく、数限りない仲間たちに囲まれて、幸福の意味を教えてくれる。  時折、青く輝いてギザギザの閃光を走らせる稲妻と、狂ったように渦巻く風の中で舞い踊りながら、ずっと遊んでいたかったけれど、ぼくは落ちる。  大地という運命に引っぱられて、強風に煽られながら、落ちていく。  森が、建物が、動物が、人々が、空にないたくさんのもので溢れた地上が迫ってきている。 真下に人がいる。人間の女の子だ。 青い橋の上で、くるくるした髪で、ひらひらした服を着ている。 なぜそこまで見えるのかというと、彼女が傘を差していないから。 彼女の白い頬に、僕はぽつりと落ちた。 名前は茜あやめ。21歳。B型。160cm。体重は…… ぼくは神さまだから、色々なことが分かってしまう。
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