願いの代償

　卒業式を目前に控えたある雨の日の朝。Fが学校に来なかった。亡くなったのだ。
　深夜に家を抜け出して、橋から飛び降りたのだという。受験のストレスが原因の自殺だと見られているそうだ。
　同級生全員でFの葬式に行ったんだけど、涙を浮かべる生徒たちの中で、Aだけが普段通りの顔をしていた。
　まさかと思った俺は葬式の帰り、Aをつかまえて問いただした。
「お前、今度はFが死ぬように神様に頼んだのかよ？」
　馬鹿げたことだとは自覚していた。けれど、聞かずにはいられなかったのだ。
　Aは一瞬ポカンとしてから、微かな笑みを浮かべてかぶりを振った。
「勘違いしてるよ、B君。Fさんはね、私が神様に捧げたの。受験に合格させる代わりに、若い魂を寄越せって、そう言われたから」
　それじゃあね、と手を振り去っていくFの軽やかな足取りは、今でも目に焼き付いている。