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茉里さんは答えをくれない
「ねえ、キミはなんでここでバイトしようと思ったの?」
そう訊いてきた彼女は、怖いほどに嬉々として見えた。まるで住む世界自体が俺とは違っているように、興味の対象がまるで自分とはかけ離れているように。
彼女はこの仕事に対して、学生の俺が違和感を覚えるほどに前向きだった。
なぜそんなに、積極的に仕事に向き合えるのだろうと、不思議に思った。気持ち悪さを感じるほどだった。
なぜなら、こんな何の面白味もない街の、ありきたりなホームセンターでの仕事に、やりがいなんてないからだ。一つも。何一つとして。お金が貰えるから、お金が必要だから――それ以外に、それ以上に、働く理由なんてない。
みんなそうなんじゃないのか?
「じゃあ、茉里さんは、なんでここに就職したんすか?」
逆にそう尋ねたくなった。けれど、茉里さんは答えをくれない。
意味深に頬を緩ませるだけで――。
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