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※※※
一ヶ月も経てば、それなりに要領を掴んできた。そして余裕が出てくると、手を抜きたくもなってくる。それでも自分の仕事はこなせているのだから、別にサボりが悪いことじゃない。
バックルームに隠れていようと考えたのだが、部屋に入ってあることを思い出した。
福田さんがいるんだった――。
俺の一つ下の女の子。いつも無口で黙々と仕事をしている彼女は、就業時間の多くをこのバックルームで過ごすことを許されている。入荷した品物を整理する仕事が彼女には与えられているからだ。
というのも、福田さんは生まれつき身体が弱いらしく、人並みに動き回ったり接客したり声を張り上げたりということが難しいらしい。だから、基本的には商品の整理と陳列のみと決められているという。
時間の限りせっせと働くことを義務づけられている俺にとっては、彼女の待遇に思うところがないわけではなかった。時給が同じとなればなおさらだ。
身体的事情が理解できないわけじゃないが、ならせめて、給料に差くらいはあってもいいじゃんと思う。ただ、方針を決めたのはあの茉里さんらしいから、反論はできない。今のところ、俺は指導係の茉里さんには頭が上がらない状態だ。
業務上の戦力として彼女には敵わないのだから。
部屋に入ってきた俺を福田さんが見たことで、視線がぶつかった。
「あ、北代さん。お疲れさまです……」
彼女は静かにいった。福田さんはおっとりしていて、外見的にも特徴のない素朴な女の子だ。動作といい声といい、何ともマイペースさに溢れている。
「ああ……」
一応、職場においては彼女のほうが先輩だが、働きとしてはすでに彼女を上回っている自負はあった。だから知らないうちに、こんなぞんざいな対応をするようになってしまっていた。年齢も俺のほうが上だ。
率直にいうと、俺たちの関係は微妙だ。彼女があまり表に出ないから、レジに立たないから、俺の仕事は増えるばかりだ。
けれど彼女は、そんな空気を読むこともなく、飄々と自分の作業を続けている。鈍感なのか、天然なのか、ただ馬鹿なだけなのか――。
まあ、俺にはあまり関係のないことだった。
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