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車に戻った彼はこう言った。
「俺たち、あそこで足踏みしたままだったのかなぁ。」
運転席に座って照れながら話しているダイチくんも、私の左側ではなく右側であの時と同じ綺麗な横顔をしている。
「あの頃の俺が素直に付き合っていたらって考えたりしなくもないよ。で随分と遠回りしたなって、正直思ってる訳よ。」
「それは違うと思う。あの頃付き合っていたならば、きっと結ばれない運命だったんじゃないかな。」
「うん。それはそうかもしれないな。でもね、俺はこうも思うのよ。もしかしたら、結局は同じ運命にたどり着いていたんじゃないかなって。選んだ道で真っ直ぐだったり遠回りだったり、険しかったり緩やかだったりするかもしれないけど、でも結局の到着点は一緒・・・同じ・・・。そんな気もするんだよね、人生って。」
「確かに。それもあるね。」
「でもこれからは一緒に前に進むよ。抜け落ちた30年分の想いも一緒にね。ここからが本番。」
そう言って彼は、へへっと照れて笑った。
「うん。」
「ん?まだ怖い?不安?俺ってそんな頼りない?」
ダイチくんのやや高めの強くない優しい、寄り添うような私の好きな声と私を覗き込んでマジマジと見るモーションの彼がここにいる。
「んー・・・。」
「何だよそれ。俺、アキに揶揄われてるよ。」
と、彼は嬉しそうに隣で照れ笑いをして、恥ずかしそうな表情を隠そうと目を逸らした。
「嘘嘘、一緒に進む。一緒にいると、自分が新しくなっていく気がするの。上手く言えないけど、似ているんだけど何か価値観が変えられているような感じがするの。」
と私が答えると、先程空に伸ばして掴まれた手を、再度優しく掴まれた。
「俺さ、実は結構面倒臭いかもよ。いい?」
「知ってる。」
私の言葉に彼はまた、恥ずかしそうな表情で目を逸らした。とても魅力的な仕草だと思った。
「さてと、そろそろ行くか。もう少しで着くよ。」
そういうと彼は車のエンジンをかけた。
私たちは前に進む・・・一緒に・・・過去と今と未来を連れて。
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