第1章 アオハル

11/31
前へ
/81ページ
次へ
「ねぇ、今のところ、もう1回弾いてほしいんだけど・・・いいかな?」 優しい声だった。私の好きな声・・・話すトーンは男子にしたらやや高めだけど、強くなくて優しい、寄り添うような声・・・。 「うん。」 と答えた言葉の先にあったのは綺麗な横顔だった。私の時間は一瞬止まる。 「ごめん。もう1回いいかな?」 再度お願いされて我に返り、少しだけ焦った。 「あ、うん、ごめん。弾くね。」 キーボードを弾き直す私に、 「もう一回いい?」 と、彼はなぜか何度も私にそう言った。何度か繰り返した私もさすがに『もしかして私、からかわれてるのかな?』などと思い始めた時、彼の隣にいたクラスメートの一人が彼に言った。 「ダイチ、しつこいって。もういい加減ええやろ。」 そう言われた彼は少し不満げな顔を見せて黙り、窓の外に目を移した。それから彼は雑談をしているクラスメートを横目に、少し間を置いてから私にそっと訊いた。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加