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「あのさ、ちょっと聞いていい?何でみんなこの曲、知ってるのかな?」
「だって市内の中学校合同音楽会の課題曲じゃん。」
「なるほどね。俺、他県から来てこの曲知らないから、ヤバイな。」
「そーなんだ。どこから来たの?」
「隣の県。でも基本的に親が転勤族だから、色々。」
「ならば知らなくても仕方ないよ。まあ出来るだけ頑張って。協力はするから。」
「おぉ、ありがとう。」
ダイチという名前の彼とそんな言葉を交わした。大好きな声と綺麗な横顔に私の胸はドキドキしていて、不満げな顔も少年っぽくて私には可愛く映っている。
「ダイチ、独占するなって。」
「ここでナンパはやめろ。」
というクラスメートの言葉に、
「してないって。」
と、少し戸惑って焦るような彼を見て、無意識に私は助け舟を出していた。
「ちょっと、もうテノール!全然音取れてないし。時間まで何度もやるから!昨日のバスのパートはほぼ完璧だったんだから、テノールヤバイって!」
こう言った後、戸惑う少年のために出てきた言葉だったこかもしれないと自分で感じた。
他の男子からの
「えー!何なんだよ。」
「鬼!どーせ俺らは!」
「あいつ、怒ってる?」
「ダイチのこと、庇った?」
と言っている声が聞こえてきたけれど、私は聞こえないふりをした。
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