第1章 アオハル

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 放課後、再テスト組は筆記用具を抱えて席に着く準備をし、下校組は教室の外へ追い出される。外は梅雨らしい雨が降っていて、屋外の部活動も中止になった。そして、再テストのため今日の合唱練習もお休みとなった。 「え、もしかして帰るとか?テストは?」 再テスト前に教室前の廊下で、ダイチくんが追い出された私に後ろから声をかけてきた。振り向いた私はすぐに自分がドキドキしていることに気づいている。 「あ、ダイチくん。セーフだった。ぎりクリアだった。」 「えっ?セーフって、マジで?何かの間違いとか採点ミスとかではなくて?」 「え?何それ。ひどっ!もう帰るから、お先に。頑張ってー。」 私はそう言うと顔が火照っているのを感じて、踵をかえしてその場を足早に立ち去る。 「じゃあな。」 という彼の優しい声が私の後を追いかけてきて、雲の上を歩いているような気持ちになって、昇降口に向かう私は笑顔になっていた。でも昇降口に続く廊下の窓から見える中庭の景色は、降り続く雨のことなどすっかり忘れていた私を嘲笑っているかのようにも思えた。しとしとと静かに降り続く雨は葉を濡らし、地面に沢山の大きな水たまりを作っていた。
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