第1章 アオハル

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 あの日以来、登下校の昇降口で、 「おはよう。」 「今から部活?頑張って!」 「気をつけて帰れよ。」 と声を掛けたり、特別教室への移動の時に、 「宿題やった?答え教えて!」 「何これ?ちょっと見ていい?」 と、たわいも無い会話をお互い二言三言するようになっていた。  彼と話すと彼の優しい声が私の周りに優しい空気を作ってくれて、自然と私も優しい気持ちになっていることに気付き、ドキドキしている自分の気持ちも素直に受け入れた。目紛しいけどちょっとした日々の、濃くない少しだけ色の付いた時間を私は過ごしている。  ついに夏休み前のクラス対抗合唱大会がやってきて、私たちは入賞を逃したものの、『頑張ったで賞』という意味のわからない賞を手にした。そしてそれ以上にクラスの団結力や絆を手に入れたといえる。私は肩に乗っていた責任がなくなりほっとしたものの、合唱大会終了と共に関わりが断ち切られた気がして寂しい気持ちになっていた。 「紙一枚か。」 と誰かが言った。そして別の誰かが、 「でも優勝トロフィーって、スゲェーちっちゃかったぜ。」 と言って、クラス全員で笑った。明日から夏休みが始まるせいか、少しだけみんなの表情は和やかに見える。でもまた、明日からは学校や塾の夏季講習に追われる生活が始まるということも分かっている。進学校の小さなひだまりなのかもしれない。  いつも言葉を交わす昇降口で、ダイチくんを見つけて私は駆け寄った。 「ダイチくん、バイバイ。」 「おっ、アキ、お疲れ!じゃあな!」 この言葉で1学期が締め括られ、私たちは夏休みに突入した。
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