第1章 アオハル

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第1章 アオハル  この春、舞い散る桜の中、私は高校に入学した。県トップクラスの進学校だ。ひと学年10クラス400人超、総生徒数約1300人の伝統マンモス校。広大な敷地に迷路のような校舎に胸が高鳴る。中学時代を部活に、バンドに、そして恋にうつつを抜かしてきた私にすれば予想以上の結果だった。合格発表はどこの高校も同じかもしれないが、歓喜と悲哀に満ちている。あちらこちらから喜びの声が上がり祝福の言葉が飛び交う一方、一瞬にして固まり表情を強張らせて肩を落としその場を立ち去る悲愴感漂う背中も見受けられるのだ。見方を変えれば残酷すぎる光景なのかもしれない。でもまだこの頃の私たちは未熟ゆえに自分のことしか見えていなくて、自分のことさえも見えていなくて、そういう人がいることすら気づくことはない。同じ中学からこの高校を受験した女子は二人だけだった。合格発表の日に、私たちはふたりで肩を組んで、青空の下でピースサインをして写真を撮られた。合格という切符を手に入れた私は、あの日のあの瞬間、空にも歓迎されているのではないかとさえ思っていた。私の目に映る景色は全てが新しくキラキラとしていて、古びた校舎さえも輝かしく映っていた。
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