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「あの・・・私、ここのクラスだけど・・・一緒?」
そんな不安でいっぱいの私に、教室の前で一人の女子が話しかけてくれた。
「う、うん。」
お互い不安を隠す余裕などなくて、ぎこちなさがありありと出てしまっている。でもそんな状況にお互い気づく余裕さえもない。
「良かったー!私、この学校に誰も知り合いがいないから・・・あ、男子はいるけど・・・。私、ユリ。よろしくね。名前は?」
背が低くて可愛い彼女は何だか見た目よりもハキハキした子で、ずっと優等生をやって来た感じをが表に出ていて、少し私とは違うタイプなのかも知れないと感じた。
「アキです。こちらこそよろしく。私も知り合いがいなくて。でも中学が同じだった女子は別のクラスに一人いるんだけどね。」
「私はここに来た女子は一人だから。でもなんだか安心した。みんなそんな感じなんだね。アキはどこの中学?」
正直、私は彼女に話しかけられて救われていた。掻き毟られていた胸や浅くなっていた呼吸のことなど全く忘れていた。教室の中に話せる人が出来たというだけで、私は妙な安心感を手に入れたようだ。
そして、巨大な体育館での入学式は始まり、あまりの生徒数の多さに驚き、緊張感の漂う空間に私の気持ちは舞い上がったまま、式は厳かに終わった。明日から始まるここでの高校生活に理想や夢を思い描かざるをえない環境の中に、私たちは置かれている。
「アキ、またね。」
「あ、ユリ。バイバイ。」
1年間を共にするこの教室からそれぞれ下校していくクラスメート全員が、不安と期待と理想と夢にあふれていることは表情から伝わってきた。
『1−6、また明日・・・』
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