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彼女はそう言ってくれたけれど、言われなくても私は知っていた。
中学を入学するとすぐに「ある部活で好きな子を訊いたら一番多く名前が上がった女子だった」と友達から聞いた後、休み時間に男子の先輩達が私の教室まで見にきたことがあったから。特別教室の机に「アキのファンクラブ募集」と書かれていたのを何度も目にしたことがあったから。そして2年後の最上級生になった時には年下の男子から高価な誕生日プレゼントをもらうという事が起こり、今までに私を好きになってくれた人が集まってバンドを結成するという事まで起こってしまう。
でもその頃の私はまだ未熟で、それらに気づくことも出来なかった。まして人から言われても何だか恥ずかしくて、避ける以外の方法を見つけることをしなかった。そんな日々が繰り返されている間に女子の先輩方から目を付けられ、ついにはお昼休みに呼び出されてしまったのだ。
「ちょっと、来て。」
お昼休みの職員控室と生徒会室に繋がる薄暗い校内の渡り廊下は人があまり行き来しない、呼び出すには格好の場所だ。
「あんたね、調子に乗ってんの?」
「ポーカーフェースであたしたちのこと、舐めてんの?」
「何か言いなさいよ!」
入学して間もない私には怖すぎて、身体が震えて一言も答えることができなかった。『私は何もしていないのに』という思いで、今にも涙があふれそうになって、『誰か助けて』と心の中で叫ぶ。そしてその状況から助けてくれたのはお昼休みの終わりを告げるチャイムだった。何という悲し過ぎる現実。でもみんなこの中学校では先輩に逆らえないのを知っているから誰も助けなどしない。こういう光景を目にしたときは誰もが見なかったことにしようと、避けて近付こうとはしない。だから呼び出された時点で、仕方がないと諦めるしかないのだ。
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