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「もぉ、可愛いんだから! 可愛くて要件忘れるかと思ったわぁ!」
「ああ、なんか渡すって話? さっさと済ませてちょうだい、私の頭に血が上らないうちにね」
いつにも増してエンゼルの口が悪い。一般に女性とは定期的にピリピリするものであるが、エンゼルは不定期、特定のシチュエーションでピリピリするのである。
例えば、こうして娘を溺愛している母親と話しているシチュエーション。年頃を考えると、ごく当たり前のことではある。
「頭に血が上ったらお母さんが癒やしてあげるわよん。それはそうと、これ。今の時期だし、住まいは別になったとはいえやってもらわないと。いつもよりは少ないけどねぇ」
そう言ってアリエルが渡したのは、8つの封書。これを受け取って全てを察したエンゼルは、やはりと言うべきか、呆れ返った。
「親元離れて、なんで親の手伝いさせられるのかしら。年越しパーティの招待状なんて……」
「本当は任せるつもりはなかったのよぉ。でもね、ちょって見てちょうだい、裏の宛名」
エンゼルは宛名を見ては凝視し、次の宛名を見てさらに凝視しを繰り返し……ある名を見たときにその凝視は最も強いものになった。そしてその表情を全く変えずに、今度はアイリアの方に歩み寄る。
アイリアはその顔に威圧されていた。どこかに修羅なるものの伝承があったが、アイリアにはまさにそういったものに見えていたようである。
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