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プロローグ:Die Oberschicht
エンゼル・トイフェルは、自分とは何なのかを知らない。
自分は天使か。悪魔か。人間か。上流の者か。尋常の者か。
何をしたい? 何ができる?
定められたままに従うことを放棄するのは、決して楽なことではない。だから、できれば捨てたい不自由な地位に、未だ依存していた。
日が経てば経つほど、後ろから押されているその感覚は強くなる。自分をトイフェル家の人間として存在させられている感覚。彼女にとっては、気持ち悪い感覚だ。
贅沢な悩みかもしれないが、エンゼルは普通になりたかった。普通が自由だと信じていた。こんなところに生まれたから窮屈な思いをさせられる。一番に拘ることを強いられる。大人のわがままに付き合わされる。それを知らないで、自分の飛び抜けた家柄の良さを皆が羨ましがる。
ああ、不快。社会とは不快。そう思ってエンゼルは育ってきた。思えば、ちょっとしたことですぐに怒ってしまうのも、身の回りのほぼ全てを不快なものとしていたことがあるのかもしれない。ただ感情表現が豊かなだけで、それが怒りという形をとりやすかった、それだけのことなのかもしれない。
実際、感情の豊かさゆえと言うべきか、彼女は心の奥底にずっと慈愛を秘めていた。人に寄り添いたかったが、どうやら人を口汚く罵ることに意図せず長けてしまったらしい。
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