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自分が二人いた。
夢に浸っている自分と、現実を遠くから眺めている自分。
人の夢が儚いことなんて、誰しもが知っている。だから、自分が夢を見ていたことに気が付くのだ。
は、と吐息が零れる。感情は胸に沈殿している。
手のひらはこんなにも嫌な汗で湿っているのに、喉はからからに乾いている。
啜り泣きが響いている。輪唱みたいに重なっては消えていく。
はは、と乾いた笑いが零れそうになって、ぐっと奥歯を噛み締めた。
如何してこんな事をするのか。
泣いたって、願ったって、帰って来ないというのに。
皆がお別れをしているのは、ただの有機物。タンパク質の、塊。それに何を願えようか。
ひとつだけ、感情があるとしたら。
それは、羨望。羨ましい。ただの無になれた、君が。
残された俺に残ったのは、屑みたいな未練。
悔しくて、不甲斐なくて、居た堪れなくて。
消えてしまいたい、だなんて言えるほど、自分というものの輪郭をはっきりと理解しきれていない僕は、ただ、この砂を噛み締めているような場所で、じゃりじゃりとした苦味に包まれているだけしか出来ない。
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