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思えば、僕はいつも、羨ましがってばかりだった。
「初めまして」
「よろしく」
僕たちの初めましては、午後の陽だまりの中で交わされた。気温はとても柔らかくて、辺りには甘い匂いが漂っていた。
「趣味は何?」
僕は昔、言葉を紡ぐことがすきだった。だけど、すきなことをすきだと、ただまっすぐにそう言っていた僕は、どこか遠くに行ってしまった。
「んー、」
だから、君の質問に対して、僕は曖昧に笑って見せた。自分が笑えば相手も笑うことを知ったのは、いつだっただろうか。それは、当たり前の事実すぎて、もう忘れてしまった。
「趣味って言えることはなんだろうなぁ」
近年、自分、というものを、酷く簡単に表現できるようになった。
随分と可能性が広がったよなぁ、と思う。同時に、随分と、生きづらい時世だとも。
小さな電気の箱を席捲するのは、取り繕って、笑顔を振りまく誰かばかり。
虚偽と欺瞞と、少しの想像。
そんな情報をスクロールしていても何も生まれないけれども。
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