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「欠かさずやることは、SNSのチェックだけれど」
量産型男子のふりをしながら、僕は君に、そう言った。
すると、君は茶褐色の瞳を揺らして、僕をじっと見つめた。
「本当に?」
「……うん、勿論だよ」
「そうかなぁ、何だか、無理をしているみたいに、見えるけれど」
君の顔の上で、緩い弧を描く口角に、三日月形に弛む瞳。
「嘘吐きは、泥棒の始まりよ」
「は?」
「私は、貴方のすきなものを聞いたのよ」
一語ずつ、強調するように落とされる言葉が、金木犀の匂いに溶けていく。
「誰かのじゃなくて、貴方の」
淡々と放たれる言の刃は、僕の心に刺さって僕の表面を抉る。
すきなものだけで生きていけるのは、お伽噺の中だけだ。
ある日、夢だけじゃ生きていけないと悟る。夢から、醒める。
それは、ほんとうに、突然の出来事。
授業開始を知らせる学校のチャイム。
ホームに滑り込んでくる電車のアナウンス。
満員電車の中で零れているイヤホンからの音漏れ。
ノートをめくった先にある羅列された英単語。
隣のカップルの喧嘩話。
何が原因かなんて分からない。だけど、いきなり、お伽噺の世界から切り離されたように雑音が聞こえるようになる。そうして、気が付けば、雑音しか、聴けなくなっている。
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