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「えぇっと……川山さん」
「誰が川山だ」
同日、同室同位置違人異人変人二人。スズが出て行ってから数分、恵茉が教室に来て俺の顔を見るなり見当違いも甚だしい名前を口にした。
「お前、」
「お前とはなんだ!」
(以下略)
「じゃあ神様で」
今までスズが座っていた椅子に腰かけ、俺を『神様』と呼んだ。恵茉は黒髪でスズよりは髪が長く、おでこを出していて表情がハッキリ見える。丸顔で、高校の制服を着ているが子供みたいな印象だった。
「じゃあってなんだ、じゃあって」
「じやあ」
「いや、小さくしろよ」
「……じやあ」
「声を小さくと言う意味じゃない!」
「神ちゃま」
「俺を小さくするな!」
きゃっきゃきゃっきゃとお腹を抱えて笑っていた。見た目だけでなく中身も幼いのか。
「で、神様」
「なんだっい!」
机の下で激痛が走った。併せてももを机の下にぶつけてしまう。
「何をする無礼者!」
ガンっと机を叩いても恵茉は頬を気持ち悪いほど上げているだけだった。そしてやり返すかのように恵茉はガンガンと机を容赦なく叩き始めた。音に驚いているのか、痛くて飛び上がっているのか、そんなように机が反応を示している。
「おい、どうした」
一転、まるで悪い魔女が毒入りのスープをかき混ぜているときのような笑みを顔に張り付けていた。そのまま何度も机をガンガン叩いている。段々と強く、激しくなっていく。
「やめろって」
ジト目で俺を睨みつけてくる。こぶしを上から押さえつけているからだろうか。それとも右手が痛くて耐えられないのだろうか。
「……離して」
答えは前者の方だったらしい。
「急にどうしたんだよ」
「なんでもないから離して」
「そんな」
「だから離してって言ってるでしょ!」
自由な恵茉の左手が机を横に倒した。角を掴み、ちゃぶ台返しみたいにぐわっと。掴んでいた手を離すのと同時にガッシャーンと机が俺たちの前から消え、中に入っていた数冊の教科書が滑り落ちた。
「ねぇ、神様は鈴とどういう関係なの?」
「どういう関係って、別に何もないぞ」
「何もないって、どういうこと?」
「どういうことって言われて、そんなに仲良くはないぞ」
「そんなにってどの程度?」
「どの程度って朝に会っても特別挨拶はしないぐらい、かな」
「だよね、鈴が誰かとなんて……それより」
恵茉は首の後ろをさすりながら俺と目も合わせず、小声でささやいた。
「鈴はえまのことなんて言ってた?」
急にしおらしくなった。先程の奇怪な行動との落差がひどい。気分屋なのか二重人格なのだろうか、とにかくまだ恵茉がわからない。
「教えて」
『ブリッコ尻軽ビッチ』と、嘘偽りなく伝えるわけにはいかないのだが、嘘偽りで伝えるわけにもいかない。俺にも事情というものがあるのに、それをすべて無視して求めてくる。
「嘘ついてもわかるから、鈴が大体いいそうなことなんて」
胸ポケットに手を当てていた。さしずめ、何か祈るように見えなくもないが、嘘をつけばどうなるのかを示唆しているに違いない。この学校に荷物検査はないのか。
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