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翌日、久しぶりの夕陽に照らされた廊下でのこと。クラスの皆が晴れていることを喜び、どこに遊びに行くだとか、やっと外で部活ができるだとかそんな喧騒もすぐさま去っていき、それほど喜びもしない人たちが帰路に着いていたころ。
「どうして……」
一人、晴れない表情でいた。その視線の先にはスズが男子生徒と腕を組んで歩いていた。恥ずかしげもなく、寄り添う二人が遠ざかっていく。
「おかしいよ……おかしい」
恵茉は胸ポケットから出したカッターを逆手に持ち替えて指が明らかに白むほど強く握っていた。
「行かないのか?」
「……行ってどうするの?」
恵茉は突っ立ったままだった。握られていたカッターをよく見ると刃なんてどこにもなかった。「……笑っちゃうよね」はははと笑っていた。不器用極まりない下手くそな笑顔だ。
スズたちが見えなくなるまで後姿を眺めていた。脱力感が伝わってくる。俺に顔を向け「不公平だよ……」と力なくつぶやいた。
「追いかければいいじゃん」
「できると思う? そもそも嫌われてるし」
はぁっと窓きわに腰をかけ、「もう本当にいいかな」と小さく呟いていた。
「諦めるのか?」
「うん……そうだね」
カッターを胸ポケットにしまい、ふぅーっと眺めての息吐いていた。そして、「よし、忘れよう」と笑顔で言った。
「そうか、ふざけるな」
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