笑顔、忘れんなよ

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 恵茉はぼーっと外を眺めていた。特に何を見ているわけではないのだろう、眼球すら動いていなかった。昨日、スズが意味もなく教科書を読んでいたのを思い出した。 「そっか、同じだったんだね」  錯乱すると思いきや、意外にも冷静だった。 「……あ、」  視線の先には並んで歩くスズと男性がいた。恵茉は何も言わない。ただじっと眺めているだけだった。 「てか、すごいね、本当に神様みたい、というかもしかして神様なの?」  ねえねえと執拗に突っかかってくる。今までろくに目を合わせようともしなかったのに、違和感めいた視線を感じる。 「背を向けるな」  もたれかかっていたことを指摘する。明らかに目をそらしている。きっと違和感の正体はそれだ。なんとも幼稚な考えだとそう思わざるを得ない。 「あのさ」  強い口調でいて、唇は尖り曲がっていた。 「そこに答えがあるからって、みんなが書くわけじゃないんだよ」 「ならせめて、校門を出るまで頑張れよ」 「……そうだね」  そういいながら目を再び二人へと向ける。二人と校門の距離はそんなにない。ただじっと目を向けていた。 「なぁ、スズが水色の髪にした理由知っているか?」 「さぁ、知らない」 「無表情でいるのは?」 「さあね」 「理由を30文字以内で答えよ」 「なんでテストっぽいの。興味ないしもうそんなことどう、」  バンっと恵茉が窓に頭をぶつけた。すごい音がしたが本人は痛がる様子もなくそのままじっと食い入るように見つめていた。視線を移すとスズと男性が手をつないでいた。 「ちなみにさっきの答え。『おかしくなればおかしいことを言っても不思議じゃなくなるから』だ」  俺から言わせればなんにもおかしい事じゃない。しかし、当の本人たちにいくら違うと言っても無駄なのだ。それは俺が一番わかっている。 「ほら」  俺は恵茉の右手を掴み、無理矢理キーチャームを握らせた。
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