娘の家族

2/2
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 今自分がいる場所は、自身が下位の存在としてしか見ていなかった、低魔族達の小さな集落。  自分に相応しい、高貴な場所も有りはしない。  何も言わず、多少無理をしてでも帰れば良かったのかもしれない。しかし、彼は帰らなかった。  しなければならない要務もある。娘は助けたのだから自分がいる必要はもう無い。  だがなぜかよく分からないが、何かが気になって仕方がなかった。  少しして、隣の部屋から小さな話し声がする。  壁は薄い。彼が魔力を使う事なく良く聞こえた。 「お前が無事で良かったわ…!…巻角族の貴族様達が、お前なら年相応で王子様のお相手に相応しいなんて言ったから……。止められなくてごめんなさいゼラ……」 「良いんだよ〜母さん。あたし、憧れの王子様に会えたんだもん」  悲しげな母親の声と、変わらず明るい娘の声。  母親は一呼吸置き、小さな声で娘に尋ねた。 「…何か、されなかった…?」 「何か?王子様に??」  母親が声を抑えたからか、娘も少し小さな声で答える。 「え〜と…お名前を教えてもらって、お話して…。身体を心配してくれたあと抱きしめられたんだけど、興奮してたみたいで角を掴まれちゃった。痛いって言ったら、出て行けって…」  娘はまた肝心なことを言わなかった。  今までは羞恥心があり、相手が他人にだったからかもしれないが、実の母親であろう彼女にすら、娘は身体を奪われた事実を黙っている。 「…何故…私はお前を……」 「あぁ、ゼラ……!!」  泣き崩れる母親の声が聞こえた。  娘想いの母親。  自分はそんな母親から、大切な娘の身を散らしたうえ命まで奪ってしまう所だったことに、改めて気付かされた。  母親だけではない。この集落の者たち皆が、この娘を心から心配していたのだ。  怒りに身を任せたばかりに、次期王ともあろう者が弱き民の命を奪うなど、許されることではない。 「大丈夫だよ!嫌われてないよ、あたし、きっと!それに弟王子様が見つかったら、きっと王子様、元気出してくれるよ!!」 「でもねゼラ…弟の王子様は、王子様が魔界中見渡して探したはずなんだから、別世に引きずられたのかもしれないのよ…?そこは私たちには、探しに行くことができないほどの場所なのだから…」  母親は、これ以上の無理をして欲しくないためか、懸命に娘にそう語りかける。 「そっか…」  娘は考え込むように、呟くようにそう言った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!