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娘は巨人の停めた荷台の上で身体を起こし、話し始める。
「え??え〜とね…?王子様の“おあいて”、うまくできなかったの。それでね、出て行けって、言われちゃった…。だからね、弟の王子様がいるんじゃないかと思って、森に行ったの」
「なぜ森に!?あの森は危ないとあれほど…!!」
族長は強い口調ではあったが、よほど心配をしているようだ。
「だからね、弟の王子様が迷って帰ってこないんだったら、王子様たち、悲しいでしょう??探してあげたかったの…王子様…すごく悲しそうだったから……」
「……。」
彼は何も言えず黙ったまま。
そしてそばに当本人がいるとも知らず、娘を囲んでの会話が続いた。
「無理シナイ、ゼラ……」
「ゼラ…なぜワシたちに相談しに帰らなかったんだ…!何も無く城を出られたというのに、もしお前に何かあったら…!それに、王子様がそんなに弟君を探して傷心しておられたとは……」
弟がたまにこっそりと人間界から魔界に帰ってきていた事も、人間になると言ってここを去ったことも、全て内密。
そのため下々の者たちは、弟王子は現在失踪し、城にはいない、という事しか知らない。
彼らからすれば、兄王子が弟が見つからず乱心し、心の埋め合わせのために娘を差し出せと言ったと思っているのだ。
「…衝動とはいえ娘に八つ当たろうなど、我ながらなんと馬鹿なことをしたものだ……」
それに娘は口にしなかったが、すでに娘は傷物。しかも娘の早とちりとはいえ、娘が森に入った原因もやはり自分。
全て自身が、周りに打ち明けずに行動した結果だった。
「兵士様!!私どもの娘を助けて頂き、本当にありがとうございました!!貴方様が助けて下さらなかったら、今頃この娘は…!」
「あ、あぁ……」
危なく自分が今、城の兵士としてここにいる事を忘れるところだった。
王子自身が直々に娘を捜索に出たのもまた、内密だったのだから。
「ゼラ、お礼を言いなさい。兵士様が、倒れたお前を森の中から見つけ、助けて下さったんだ」
「そうなんですね!兵士様、ありがとうございましたっ!!」
娘は先ほどまでぐったりと身体を横たえていたとは思えないほどしっかりと立ち上がり、礼儀正しく頭を下げた。
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