追い出され、娘が進む森の中

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追い出され、娘が進む森の中

 その頃、城を追い出された娘は泣きながら自分の集落に向かっていた。  小角族の者は魔力はかなり弱い。  その代わりに体力が、他の高魔力の者達よりもある。身体の痛みなどは、もうとっくに平気だった。  そんなことよりも、落ち込んでいた王子を励ますことを自分では出来なかったのが悲しかった。  彼がいつも難しい顔をしており、弟がいようとも心が孤独だったであろうことを、族長のギダから何度も聞かされていた。  選ばれた自分が“おあいて”になれば、少しは元気になってくれるかもしれないと思っていたからだった。 「王子様…あたし……」  今でも残る彼の温かさに、自分の中に何かの高鳴りを感じながらも、彼の悲しげな表情が頭を去来した。 「…きっと、いなくなった弟の王子様を見つけてあげれば、王子様は元気になってくれる…」  自分にとって出来ることはそれだけな気がした。  頭はあまり良くない、魔力は低い。しかし彼の言った通り、体力はある。  自分は年端はいかぬとも、強き大樹とも言われた小角族なのだから。 「よぉし…!!」  早速娘は、魔界で迷いやすい場所に弟王子を探しに行くことにした。  …とはいえ小角族には、王族や他族、魔界獣たちにあるような大翼などない。  魔族から少し外れた理にいる、魔女や魔術使いのように魔具も使えない。 「どのくらい歩くのかなあ?」  魔界の誰しもが『行けば魔力尽きて還らず』といわれた迷いの森を、娘は一匹、歩いて目指した。 「わあ、薄暗ぁい……」  広大な森の入り口は魔界樹が生い茂り、立て札が立っていた。 「え〜と……なんて読むんだっけ??たしか立て札が立ってたら、気をつけないとならないんだよね…気をつけよう!」 『魔の胞子が飛ぶ時期 特に立ち入りを禁ず』  その立て札も読めないまま、娘は森に入っていった。 「弟王子様ぁ〜!!ライ王子様の、弟の王子様ぁ〜!!いませんか〜!?」  さすが魔族の中でも体力がある方の小角族。娘は、草をかき分け、大花を避け、吸血草は枯れ枝で叩きながら森を進んだ。 「えいっ、えいっ……あれ…?なんか…霧かなあ?」  周りがモヤ掛かってきた。  目も鼻も、耳もいい彼女にとっては、視界が多少悪いくらいは何ともない。  しかし、問題はこの霧状の何かだった。 「??…あ……」  身体が突然傾く。  そして力が段々と抜け、膝から崩れ落ちた。 「弟…おう…じ…さ…ま……」  間際まで、顔も見たことがない弟王子の事が頭から離れずそのまま倒れ、娘は気を失った。
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