184人が本棚に入れています
本棚に追加
さっき今里さんが交際宣言した場面にはいなかったはずなのに、もう私達のことを知っている様子だ。
おそらく、総務課の誰かから聞いたのだろう。
こんな短い時間でも、確実に噂は広まっているんだ………
そのスピードにちょっとたじろいでしまうけど、同時に、腹をくくらなければと思った。
すると私の背後にいる今里さんも同じことを考えていたのだろう、
「すごい速度だな」と苦笑した。
けれど、私の前に一歩出ると、
「オレはともかく、あんまり彼女をからかわないでくださいね。彼女、恥ずかしがりやなんで」
私を庇うようにそう言ってくれた。
笑いながら言った今里さんに、先輩はなぜか満足そうだ。
うんうん、というように私達二人を眺めてから、まるで身内を案じるような口調で、
「総務の子から聞いた通り、仲良しね。ちゃんと野田さんを守ってあげてくださいね」
前半は私に、後半は今里さんに向けて言った。
今里さんは微笑んだまま、すぐさま頷いた。
「もちろんそのつもりです」
即座に返ってきた答えに先輩はちょっと驚いたようで、一瞬間が生まれたけれど、
「やだ、のろけられちゃった」と楽しそうにおどけて、そのままエレベーターホールに消えていったのだった。
「思ったよりも広まるのが速いな」
先輩の姿が見えなくなってから、今里さんが噛み締めるように呟いた。
「そうですね。びっくりしました」
また二人きりになった廊下で、私は今里さんに同意しながらも、私達の関係が知られてしまったことを改めて実感していた。
私みたいな普通の女子社員と次期社長の今里さんが付き合ってるなんて、他の人はどう思うだろう……
そんな、後ろ向きなことがまた頭を過る。
すると今里さんがくるりとこっちを向いて、自然な手つきで私の肩を抱き寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!