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「……ごめんね。オレとのこと秘密にしたいって言ってたのに。でも、これに関してはオレのワガママを通させてほしい」
今里さんには、私の考えてることが透けて見えているのだろうか。
私は誘われるがまま、視線を重ねた。
「きっとこれから、今みたいに声をかけられたりすることも増えると思う。一応、オレは社内では有名みたいだからね。いろんな人間がいるから、もしかしたら嫌な思いをするかもしれない。だけどオレが守るから。もし、何かあったりされたりしたら、必ず教えてほしい。それこそ、そこに秘密は作らないで。オレに、幸を守らせてほしい」
まっすぐな瞳と真摯な物言いが、私にダイレクト伝わってくる。
秘密は作らないで……
私はその言葉を、胸の奥に刻んだ。
「分かりました。何かあったらすぐにお知らせします。今里さんに秘密を作ったりは…」
秘密は作りません。
そう誓うつもりなのに、ふいに、今里さんとのことがいくつも思い返されてきて、私は言葉を置いてしまった。
秘密からはじまった恋。
秘密に振り回されて、
秘密に傷付けられて、
秘密に不安を煽られたりもしたけれど。
「……だけど正直に言うと、」
「うん?」
「私、”秘密の社内恋愛”、結構楽しかったです」
二人の関係がオープンになってしまえば、以前のように隠す必要もなくなってしまうだろう。
あんなに秘密を嫌っていたのに、
今里さんと共犯する秘密は、ドキドキして、胸が躍って、”甘いスパイス” を味わっていたのだ。
自分でも、自分勝手だとは思う。
けれど、その、”秘密の社内恋愛” を楽しんでいたのは事実で、
それが終わってしまうことに、今、ほんの少し寂しさも感じずにはいられない。
けれど、複雑な胸のうちを白状した私に、今里さんは、ハッと、声に出して笑った。
そして、そっと私の耳もとに口を寄せ、
「……オレも」
半端ない色気を帯びたウィスパーボイスを吹き込んできたのだ。
思わず、ビクン、と反応してしまう私。
今里さんはそんな私に気をよくしたように、さらに顔を近付けてきて――――
「ん……っ」
食むように、唇を重ねた。
けれどそれはごく短い時間で、すぐに唇を離した今里さんは、壮絶な艶を浮かべた表情で私に囁いたのだった。
「”秘密の社内恋愛” は終わっても、こうやって、”二人だけの秘密” を増やしていけばいいんだよ」
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