【番外編】秘密だって、愛おしい

34/37
前へ
/104ページ
次へ
「……ごめんね。オレとのこと秘密にしたいって言ってたのに。でも、これに関してはオレのワガママを通させてほしい」 今里さんには、私の考えてることが透けて見えているのだろうか。 私は誘われるがまま、視線を重ねた。 「きっとこれから、今みたいに声をかけられたりすることも増えると思う。一応、オレは社内では有名みたいだからね。いろんな人間がいるから、もしかしたら嫌な思いをするかもしれない。だけどオレが守るから。もし、何かあったりされたりしたら、必ず教えてほしい。それこそ、そこに秘密は作らないで。オレに、幸を守らせてほしい」 まっすぐな瞳と真摯な物言いが、私にダイレクト伝わってくる。 秘密は作らないで…… 私はその言葉を、胸の奥に刻んだ。 「分かりました。何かあったらすぐにお知らせします。今里さんに秘密を作ったりは…」 秘密は作りません。 そう誓うつもりなのに、ふいに、今里さんとのことがいくつも思い返されてきて、私は言葉を置いてしまった。 秘密からはじまった恋。 秘密に振り回されて、 秘密に傷付けられて、 秘密に不安を煽られたりもしたけれど。 「……だけど正直に言うと、」 「うん?」 「私、”秘密の社内恋愛”、結構楽しかったです」 二人の関係がオープンになってしまえば、以前のように隠す必要もなくなってしまうだろう。 あんなに秘密を嫌っていたのに、 今里さんと共犯する秘密は、ドキドキして、胸が躍って、”甘いスパイス” を味わっていたのだ。 自分でも、自分勝手だとは思う。 けれど、その、”秘密の社内恋愛” を楽しんでいたのは事実で、 それが終わってしまうことに、今、ほんの少し寂しさも感じずにはいられない。 けれど、複雑な胸のうちを白状した私に、今里さんは、ハッと、声に出して笑った。 そして、そっと私の耳もとに口を寄せ、 「……オレも」 半端ない色気を帯びたウィスパーボイスを吹き込んできたのだ。 思わず、ビクン、と反応してしまう私。 今里さんはそんな私に気をよくしたように、さらに顔を近付けてきて―――― 「ん……っ」 食むように、唇を重ねた。 けれどそれはごく短い時間で、すぐに唇を離した今里さんは、壮絶な艶を浮かべた表情で私に囁いたのだった。 「”秘密の社内恋愛” は終わっても、こうやって、”二人だけの秘密” を増やしていけばいいんだよ」
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加