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「あ……」
キス逃げされた私は、その素早さに呆気にとられてしまって、何も言い返せない。
けれど、エレベーターの扉が閉まるギリギリまで今里さんの本当に嬉しそうな顔が見えたので、社内でキスはしないでと怒る気にもなれなかった。
むしろ、他の人の目を意識しながらのキスは、デートのときのキスとは違うドキドキ感があって……
私はエレベーターのフロア表示ランプを見上げながら、そっと、自分の唇に触った。
今里さんと二人で作る秘密は、やっぱり、甘い……
そうして私は、今里さんを乗せたエレベーターが一階に辿り着くのを見届けてから、総務課に向かった。
きっと、矢継ぎ早に質問攻撃を受けるだろうけど、答えられるところはきちんと答えよう。
でも、もしも答えにくい質問をされたらどうしようか。
………そうだ、もし、答えにくいことを訊かれたらそのときは、
二人だけの秘密にさせてください――――そう答えよう。
そんなことを考えていたら、ふんわりと、胸が、幸せであたたかくなった。
思わず頬が緩んでしまい、足を止める。
もしかしたら、私は今はじめて感じているのかもしれない。
秘密だって、愛おしいんだと………
頬の緩みが酷くなってしまいそうで、私はそれを堪えなければと咄嗟に俯いた。
必然的に目に入ってくるカーペット。
その色に惑わされなくなる日も、やがて訪れるかもしれない。
そんな予感がしていた。
きっと、今里さんと重ねていく愛おしい秘密達が、少しずつ私を強くさせてくれるだろうから。
その日が訪れるまで、もしかしたらまた今里さんとの ”違い” に気後れすることもあるかもしれないけど、そのときは二人一緒の秘密を新たに重ねよう。
与えられる秘密は苦くても、
二人共犯の秘密は、とても愛おしいのだから………
【番外編】秘密だって、愛おしい(完)
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