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「……秘密は、やっぱり好きじゃありません」
それは、以前にも今里さんに伝えていたこと。
今里さんもそれをちゃんと覚えていてくれたのに、なのに、秘密を作った。
嘘をついた。
些細な嘘かもしれないけど、それを嘘と知ってしまった私は、知らないフリもできなくて……
今里さんは私に弾かれた手をグッと握り、悔しそうに眉根を寄せた。
「……うん、そうだね。オレはそれを知ってたのに、幸にまた秘密を作ってしまった。……オレは、幸におかしな誤解をされたくなかったから。少しでもオレの気持ちを疑われそうな可能性があるなら、わざわざ話す必要はないと思ったんだ。もともと彼女のことは近いうちに幸に話す機会があると思ってたから、それまではあえて言わなくてもいいだろうって。そんなことより、もっと幸の話を聞きたかったし、幸のことを知りたかったんだ」
「私、今里さんの気持ちを疑ったりなんて……」
「でも、昼休みに女性と二人で食事をしただなんて、知りたくはないだろう?交遊関係が賑やかで普段から男友達が近くにいるような女の子ならともかく、幸は控えめで真面目な女の子だから、もし説明しても嫌な気持ちになるかもしれないと思ったし、それが原因で誤解されたくもなかった。そう言うオレだって、仕事以外で幸がオレの知らない男と二人で食事に出かけたりしたら気になるし、それを隠されたりしたら嫌な気持ちにもなると思う。……まあ、だったら彼女以外の女性と二人で食事なんかしなければいいんだけど、一昨日はもう一人来るはずだったのにドタキャンされてね……」
「だったら、昨日は?お二人の予定ではなかったんですか?」
口が勝手に、追及していた。
まるで、今里さんを責めるような口ぶりで。
けれど今里さんは微塵も嫌な顔をせず、「二人じゃなかったよ」と答えてくれた。
「昨日も、三人で会う約束だったんだ。オレと、彼女と、彼女の恋人と」
今里さんのその説明に、私は思わず「え……?」と問い返していた。
「福島さんの恋人……?」
あまりにも私の顔が驚き一色だったのか、それとも、明らかに私の態度が軟化してきてるからか、今里さんは少しだけ、クスリと笑った。
たったそれだけで、空気が変わった気がした。
「そう。彼女はオレの従兄と付き合ってるんだ。もう何年も前からね。だから、ある意味噂は本当なんだよ。”白華堂の社長は、自分の娘をエフ・レスト社長の甥と婚約させたがってる” って」
言いながら、今里さんはまた私に手を伸ばしてくる。
けれどその手は私を拘束するためでなく、そっと、私の髪に触れてきたのだ。
慈しむような手つきで髪に指を差し込まれて、私は、ひどく戸惑ってしまう。
こんなの、さっき抱きしめられたことと比べたら全然大した触れ合いじゃないのに、どうしても、頬に熱が走るのを抑えられない。
それはまるで、はじめて会った夜、今里さんが唇に指を当てて
『秘密だよ――――――――』
そう言ったときと同じ、扇情的で………
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