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「誤解……」
肌で今里さんのぬくもりを感じ、その距離の近さがさらに胸を落ち着かなくさせる。
けれど、
「誤解じゃなかったら、嫉妬?」
そのセリフには、即座には否定した。
「違います。嫉妬なんかじゃなくて、私は……」
嫉妬なんかじゃない。
私は、自分に自信がなくて、それで今里さんと福島さん二人の姿を見るのが苦しくて……
つまり、心情的には嫉妬にすら辿り着けていなかったのだろうから。
「じゃあ、嫉妬じゃなかったら、何?」
深く尋ねてくる今里さんは、私を探るように見据えている。
「それは………」
そして私が言葉に詰まると、今里さんは何かに思い当たったように、困ったな……という顔つきになったのだった。
「まさか、まだ立場が違うとか、家柄がどうとか、そんなこと考えてたの?」
今里さんはそう訊きながら、手のひらを反し、親指の腹で私の頬を撫でてきた。
そして困り顔のまま、ささやかに、息を吐いて笑ったのだった。
「まだそんな風に考えてたなんて……。あんなに、オレの気持ちを伝えてきたつもりなのに」
真正面から図星を突かれた私は、どうにも反論できなかった。
ただ、
「まだ、伝えて足りなかったのかな……」
静かに独り言のようにそう言った今里さんには、たまらずに言い返した。
「そんなことないです」
「そうかな?」
「今里さんは、いつも私に気持ちを伝えてくれてて……。私、本当に今里さんの気持ちを疑ったことはないんです。ただ、……自分に、自信がないだけなんです」
「それは、オレがこんなに幸を好きだと伝えても、解決できないこと?」
「それは……」
「だいたい、自信なんか、オレだってないよ」
「え?」
呟くように言い放ったあと、今里さんは私から離れてしまった。
そして体ごと横向いて、聞こえるか聞こえないくらいのか細いため息をもらした。
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