【番外編】秘密だって、愛おしい

28/37
前へ
/104ページ
次へ
「ん…っ」 どこで息継ぎしたらいいのか分からないような、私を混乱させて溶かすようなキスは、まだ続いた。 「んっ、ん……」 どれくらい、そうしていただろう。 やがて今里さんが私の頭を支えていた手を耳もとに移し、唇が、ふいに解放された。 キスの名残、微かに糸をひいていくのが見えて、カアッと体全身が熱くなる。 ……会社で、なんてキスをしてしまったんだろう。 私が恥ずかしさと後悔で下向くと、 「ごめん、我慢できなかった」 申し訳なさそうな今里さんの声がふわりと落ちてきた。 私は黙ったまま小さく首を振って答えたけれど、「幸、こっち向いて?」と、今里さんに頬を撫でられる。 ゆっくりゆっくり上向くと、恋人は、満足そうな、でもどこか心配そうな顔で私を見ていた。 そして両手で私の頬を挟んで、指先だけを、肌を味わうように動かした。 「好きだよ、幸」 そう告げて、またキス。 咄嗟のことに、されるがままの私だったけど、3度目にキスされそうになったときは、さすがに抗うことができた。 「ま、待ってください。会社でそんなこと……んんっ」 でも結局、重ねられてしまったキス。 私はそれに翻弄されつつもまったく違った感情が芽生えていて、ちょっと困ってしまう。 気持ちいい……という感情が。 けれど、 「嫌がってる顔じゃないよ?」 今里さんにそう甘く囁かれれば、恥ずかしさが容量オーバーで弾けてしまった。 「そんなこと……っ!」 身じろいで反論するも、今里さんは余裕の表情で微笑んでいる。 「少しはオレの必死さが伝わった?これで、もう自分に自信がないなんて思わないよね?」 今里さんのセリフが、風になって唇に届く。 ……必死とか言っても、実際は私ばかりが動揺してるようで、なんだか悔しい。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加