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「ん…っ」
どこで息継ぎしたらいいのか分からないような、私を混乱させて溶かすようなキスは、まだ続いた。
「んっ、ん……」
どれくらい、そうしていただろう。
やがて今里さんが私の頭を支えていた手を耳もとに移し、唇が、ふいに解放された。
キスの名残、微かに糸をひいていくのが見えて、カアッと体全身が熱くなる。
……会社で、なんてキスをしてしまったんだろう。
私が恥ずかしさと後悔で下向くと、
「ごめん、我慢できなかった」
申し訳なさそうな今里さんの声がふわりと落ちてきた。
私は黙ったまま小さく首を振って答えたけれど、「幸、こっち向いて?」と、今里さんに頬を撫でられる。
ゆっくりゆっくり上向くと、恋人は、満足そうな、でもどこか心配そうな顔で私を見ていた。
そして両手で私の頬を挟んで、指先だけを、肌を味わうように動かした。
「好きだよ、幸」
そう告げて、またキス。
咄嗟のことに、されるがままの私だったけど、3度目にキスされそうになったときは、さすがに抗うことができた。
「ま、待ってください。会社でそんなこと……んんっ」
でも結局、重ねられてしまったキス。
私はそれに翻弄されつつもまったく違った感情が芽生えていて、ちょっと困ってしまう。
気持ちいい……という感情が。
けれど、
「嫌がってる顔じゃないよ?」
今里さんにそう甘く囁かれれば、恥ずかしさが容量オーバーで弾けてしまった。
「そんなこと……っ!」
身じろいで反論するも、今里さんは余裕の表情で微笑んでいる。
「少しはオレの必死さが伝わった?これで、もう自分に自信がないなんて思わないよね?」
今里さんのセリフが、風になって唇に届く。
……必死とか言っても、実際は私ばかりが動揺してるようで、なんだか悔しい。
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