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「………会社では、やめてください」
誰に見られるか分からないんですから。
唇が僅かに離れた隙に、正論でクレームを言ったけれど、今里さんはさらに反論してくる。
「じゃあ、誰にも見られないところだったらいいの?」
やけに色っぽく意味深に訊かれて、私は返事に窮してしまった。
すると今里さんは、フッと吐息を跳ねさせて、
「ごめんごめん。幸があまりにも可愛すぎて、つい意地悪言ってしまいたくなるんだよ」
私をまた腕の中に閉じ込めたのだった。
「あー……やばい、オレSっ気あるのかな」
「え?」
今里さんの発言にちょっとびっくりした私が、彼の腕を潜ってどうにか顔を上げると、超至近距離で、目と目が合う。
まっすぐに見下ろされていたのだ。
「ま、それは冗談としても、こんな気持ちになるのも、幸がはじめてだよ」
目が合ったままそう言われると、さっき容量オーバーしたはずの恥ずかしさよりも、嬉しいという思いが容易く上回ってしまう。
……本当に、ゲンキンなものだ。
すると今里さんは、今度はそっと私の額にキスしてきた。
「このままここでこうしてたいけど、昼休みは永遠じゃないからね」
私の額から唇を離しながら、残念そうに私の体も離した今里さん。
私は、遠ざかっていく彼のぬくもりに寂しさを感じてしまったけれど、タイミングよくお腹がキュルルと空腹を知らせてきた。
「あ……」
こんなときにお腹が鳴るなんて。
恥ずかしさと気まずさでいっぱいになる私に対して、今里さんはクスクスと楽しそうで。
「しょうがない、幸がランチを食べ損なう前に戻ろうか」
その今里さんの一声で、倉庫での密会は終了となったのだった。
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